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東京地方裁判所 昭和38年(ソ)39号 決定 1964年3月16日

申立人 鈴木弘

相手方 国

主文

原決定を取り消す。

本件を東京簡易裁判所に差し戻す。

理由

抗告人の申立ておよび申立理由は、別紙即時抗告状と題する書面記載のとおりである。

抗告人は、簡易裁判所に対する起訴前の和解申立却下決定に対して即時抗告を申立てる旨述べているが、起訴前の和解申立却下決定に対しては、即時抗告をなしうる旨の規定がないから、本件申立てを通常抗告として取り扱つたうえ判断を加えることとする。

考えるに、原決定は公法行為に関連する損害賠償についての争いは民事上の争いとならないから、和解申立ての要件を欠き不適法であるとの理由で抗告人の和解申立てを却下している(原決定には主文はないが、末尾の記載によりそれが和解申立てを却下した決定であることは明らかである。)が本件申立ての内容をなす国家賠償請求は私法上の請求であるものというべく、したがつてこれに関する争いも私法上の権利関係に関する争い、すなわち原決定のいう民事上の争いであるから、公法行為に関連する損害賠償請求についての争いが民事上の争いとはいえないことを前提として抗告人の起訴前の和解申立てを不適法として却下した原決定は失当である。(なお原決定は抗告人主張の国家賠償請求権の成否についても判断を加えているが、請求権の成否は和解申立が、適法であるかどうかを判断するに当つて考慮すべき事項でないことは当然である。)

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 位野木益雄 田嶋重徳 小笠原昭夫)

別紙 即時抗告状

右当事者間の東京簡易裁判所昭和三八年(イ)第八八六号国家賠償請求和解事件につき、同裁判所は昭和三八年十一月七日申立却下する決定をなし、該決定は同年同月一〇日申立人に送達されたが、不服なるにつき即時抗告いたします。

原決定の表示

本申立を却下する。

申立の趣旨

原決定を取消す

申立の原因

1、原決定は「申立人の所論をもつてしては裁判官の過失を認むるを得ざるのみならず」との判断をくだしているが、これは違法である。

和解申立にあたつての要件は、請求の趣旨原因および争の実情を表示すること、本件についていえば国家賠償法第一条第一項の規定にもとづいて、申立人が国に対して賠償請求をなし、これにつき争があり互譲により解決しようとしていることを表示することである。申立人が「公務員の過失」に対する事実摘示をなしたのはただ相手方国に対する親切心からである。(原決定書中に於いて事実を「過失」については記載していないことからしても申立書記載要件でないこと明白なり!)。しかも、この記載事実は過失を証明しえないかもしれないが疎明しうるものである。少くとも「過失のないこと」を証明ないし疎明するものでないこと明白である。それにもかかわらず裁判所が別に証明を要しない事実につき、判断をなすのは権限踰越の違法である。

二、原決定は「公法行為に関連する私権侵害賠償の争は民事上の争と認め難く」との判断をくだしているが、これは法律の解釈を誤つたものである。

行政事件と民事事件の区別は訴訟物の性質によつて分けるというのが通説で、訴訟の類型も訴訟物によつて区別するというのが一般である。たとえ行政処分の効力が前提問題となつていても、訴訟物つまり訴訟の対象が所有権の確認であるとか、損害賠償請求といつたように私法上の法律関係であれば、その事件は民事事件である。

民事事件といつても行政処分の効力等が前提として争われている事件もあり普通の民事事件と違うものもあるからこそ行政事件訴訟法は第四十五条第一項の規定を設けたものである。

また国家賠償請求にかんする事件は関連請求に係る訴訟の移送の場合を除いて、行政事件訴訟法の適用をうけない。だからこそ、それは民事訴訟法の適用をうけ、権利主体としての「国」が訴訟当事者とならねばならぬことになつているものである。

かように、本件争は民事上の争である。

三、以上理由により原決定は取消さるべきである。

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